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/ ARTICLE / メディア記事 4 Feb 2017

この神々の聖域を、一生忘れないだろう。【1週間テント泊ソロ縦走|中編】

Words by Daisuke YOSUMI / Photo by Shotaro KATO
Reading Time:9m33s
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全長65km、累積標高差6,700m。
越える山は約20峰。
〝日本列島の屋根〟北アルプスの峰々を
一週間かけて歩く。
構想1年、準備2ヵ月。幼少からの夢は叶うのか。
「衣料、全食糧、住居」すべてを
バックパックで背負い、歩き通すという
もっともインディペンデントなスタイルでの
山の旅、全記録。
——————————————

▶︎ 文&モデル:四角大輔|Daisuke YOSUMI
▶︎ 写真:山岳フォトグラファー加戸昭太郎|Shotaro KATO
( 取材日:2011年10月4日~10日)

▽シリーズ《1週間テント泊ソロ縦走》
前編:小学生のころ見上げた、北アルプス夢の天空路へ。
中編:この神々の聖域を、一生忘れないだろう。
後編:空と大地の間に生かされ、歩を前へ。

〈DAY3〉
北アルプス心臓部から槍ヶ岳を臨む

爽快な目覚め。
テントを叩く音はもうしない。風は収まっているようだ。

昨夜も上質な睡眠を得られたようだ。山では、睡眠の質が、次の日の登山の仕上がりを決める。いや、これは街でも同じことだ。テントの天井を見上げながら、ボンヤリとそんなこと考えながら、今日の行程を頭の中でシミュレーションする。

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寝袋の中で、両手と足の指を拡げながら、手首とアキレス腱のストレッチを開始。
心臓から一番遠い末端部位の毛細血管を拡張させながら、体の機能を少しずつ目覚めさせる。

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次に深い呼吸を繰り返しながら体幹を伸縮させながら、横隔膜を大きく上下させる。
この体幹ヨガで内臓にポジティブな刺激を与えて、体と意識を覚醒させる。

5149-min5155-min

これは、テントの中で毎朝行う、ぼくなりの一種の目覚めのためのスイッチ。この段階で自分の体調がわかる。
よし、今日も我が肉体は万全だ。

5132-min

そして、前日にプラティパス(水筒)に汲んでおいた山の恵みである純天然水をゆっくりと飲む。次に、前夜のうちに枕もとに忍ばせておいた、ニュージーランド産のマヌカはちみつのタブレットを口に放り込む。

この一連の儀式をもってぼくの「活動モード」はオンになる。

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時計を見ると午前2時半。

朝型のぼくは、街でも早寝早起きだが、山ではそれが更に極端になる。
テント場で、日の出までの静寂をスロウに味わう数時間こそが、ぼくにとって「もっとも至福のとき」なのだ。

4695-min

ギリギリに起きてバタバタと慌てて準備をするのではなく、2時間以上かけて、ゆっくりテントと寝袋をたたみ、のんびりと全身のストレッチヨガを行ない、ていねいにパッキングして出発するのがぼくのスタイル。

外に出ると、まだかすかに霧雨が。
だが空を見上げると、雲の切れ間にうっすらと星が見えている。

4803-min

「よし、晴れるぞ」と小さく叫ぶ。
こんな山岳エリアで、昨日のような嵐の中を歩き進めるのはもうゴメンだ。そしてテント場では、晴れた空のもとテントを張りたい。

昨日、このテント場を運営する双六小屋で教えてもらった予報によると、今日から最終日まで、ずっと好天が続くというのだ。
その朗報を信じたい。

4711-min

テントを乾かしてから出発したい、レインギアなしで歩きたい、というふたつの下心もあり、今日は出発を遅めにしたかった。
晴れの気配を感じるし、今日の歩行時間は7時間弱と比較的短いので大丈夫だろう。

予想通り青空が顔を出した。
すべてのギアはほぼ乾いた。

さあ、出発だ。

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体調も天候も味方をしてくれている。
双六岳も三俣蓮華岳もパスできる巻き道への分岐点では、体調もいいので迷わず両峰の山頂を経由するルートを選ぶ。

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双六岳から見た槍ヶ岳と穂高連峰の英姿。
三俣蓮華岳から眼下に見えた雲ノ平の雄姿。

それぞれの頂からの壮大な眺めと、この二峰間で目にした景色は圧巻で、ぼくのトレッキング史において三本の指に入る経験となった。

4781-min

4787-min

〈今回の山行中ずっとぼくも見守り続けてくれた槍ヶ岳。力強くも繊細なその姿にどれだけ力をもらったことか〉

三俣山荘まで下りきる直前に、今日もう一つの分岐点がある。

鷲羽岳、ワリモ岳、祖父岳という3つの山頂を経由するか、それらに登らず、一気に雲ノ平に降りる黒部源流ルートを選ぶか。

体調と相談した結果、体の真ん中あたりにあるぼくの心は「GO!」と言っている。
頭上に広がる大空も背中を押してくれる。

ここも、稜線をゆく登頂ルートを選ぶことに。

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三俣山荘で30分ほどの少し長めの休憩を入れる。
入念なストレッチヨガを行なったあと、目前にそびえ立つ鷲羽岳への直登ルートを進む。

すぐ足下には黒部川源流と重厚な原生林が存在する。
ワリモ岳からは、雲ノ平のはるか右肩あたりに、かすかに高天原が見える。高天原は、北アルプスはほぼ制覇したという山岳部出身の父が「一生忘れられない場所」と称した聖域だ。

山岳風景の中にポッカリと穴が空いたような盆地というか、その不思議な空間にしばらく意識を奪われる。

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ちょうど1ヶ月前、釣り竿を片手に野生の岩魚を求めて黒部源流を遡行し、次の日には高天原の野天温泉につかっていた。5日間に渡った、そのフライフィッシング冒険を回想していた。

ここでまた、ぼくの頭の中の北アルプス地図がつながった、感無量だ。山は、実際に歩くことではじめて1つの山脈となるのである。
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この日の天候は本当に素晴らしく、太陽がずっとぼくのそばで応援歌を歌いながら、雲ノ平キャンプ場まで導いてくれた。

今日の五峰が見せてくれた奇跡は一生忘れないだろう。

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〈DAY4〉
山の孤島で逃げ道なしの秘境
雲ノ平は白銀世界

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朝起きてテントから外に出ると、辺り一面は真っ白。
まさに荘厳の一言。

急激な天候変化がもたらした、何かを超越したようなオーラをまとう雪原を目にすると、人間の存在をなんとも思わない、大自然の「圧」を感じ、ちょっとした恐怖感に襲われる。

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「日本最後の秘境」とも呼ばれる、北アルプス最奥に位置する雲ノ平に立ちながら、自分が大自然の深部にいることをリアルに実感。
心と細胞が、シンプルに感動してしまっているのがわかる。

テントを濡れたまま袋に詰め、雲ノ平山荘に向かう。

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テーマ③「二郎さんに会う」は、ぼくにとって槍ヶ岳登頂と同等に必須であった。

ドアを開けると、若主人の伊藤二郎さんが、笑顔で出迎えてくれた。
この「原野の詩人」に会うために、わざわざこの遠回りの、肉体的には困難なルートを選んだのだ。

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改築直後の凛とした空間に、木製スピーカーから無垢なオルタナティヴ・ロックが静かに流れている。
ひと月振りの再会にガッツリ握手。

古いソウルから小沢健二までの音楽論と、星野道夫から宮崎駿までの表現論について熱く語り合う。
気付いたら二時間経過。

どこから歩いても2日かかるという、こんな原野で。
高さ2500mという、日本最高地の溶岩台地の真ん中で。
まさに至福の時間だった。

別れを告げ、雪と凍結で猛烈に滑る木道を慎重に進む。

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曇天、極寒のなか、垂直降下のような岩の道を薬師沢へぐんぐんと下ってゆく。

その途中、強烈な獣の匂いがした。熊だ。

その残り香から、すぐ先ほどまでこの場所にいたのがわかる。北海道に住んでいたころ、何度かヒグマに遭遇したからよくわかる。でも、ここにいるのはツキノワグマ。それほど恐れることはない。

谷に向かうにつれ、森が深くなり、生き物たちの「命の濃度」が高まってゆくのを感じる。

今回の山旅の全行程の9割を占める森林限界上の岩稜エリアでは、あまり「生命感」を感じないため、森に入った瞬間ホッとするのはぼくだけじゃないだろう。日本人のルーツは「森の民」だから、誰もがそういうDNAを持ち合わせているから。

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薬師沢小屋前の黒部川の淵に、岩魚の群れを確認しながら、太郎平への登攀を開始。ひと月前は、ここで竿を振っていたことを思い出す。

10月の今はもう禁漁となっていて釣りは禁止。薬師沢小屋もちょうど、小屋閉めの最後の作業を行っていた。先月お世話になった小屋スタッフに軽く挨拶をして、先へ進み太郎平への登坂にとりつく。

数時間かけて登り切り、薬師峠キャンプ場に着いたころには、青空がぼくを出迎えてくれていた。

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▽シリーズ《1週間テント泊ソロ縦走》
前編:小学生のころ見上げた、北アルプス夢の天空路へ。
中編:この神々の聖域を、一生忘れないだろう。
後編:空と大地の間に生かされ、歩を前へ。

本記事は『PEAKS』2012.6月号掲載の「1週間テント泊ソロ縦走」に、本人による大幅な加筆修正と、新規写真(全182枚)が追加された最新&完全版です(当HP掲載|2017.1)

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