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/ ARTICLE / メディア記事 5 Feb 2017

空と大地の間に生かされ、歩を前へ。【1週間テント泊ソロ縦走|後編】

Words by Daisuke YOSUMI / Photo by Shotaro KATO
Reading Time:10m36s
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本記事は『PEAKS』2012.6月号掲載の「1週間テント泊ソロ縦走」に、本人による大幅な加筆修正と、新規写真(全182枚)が追加された最新&完全版です(当HP掲載|2017.1)

全長65km、累積標高差6,700m。
越える山は約20峰。
〝日本列島の屋根〟北アルプスの峰々を
一週間かけて歩く。
構想1年、準備2ヵ月。幼少からの夢は叶うのか。
「衣料、全食糧、住居」すべてを
バックパックで背負い、歩き通すという
もっともインディペンデントなスタイルでの
山の旅、全記録。
——————————————

▶︎ 文&モデル:四角大輔|Daisuke YOSUMI
▶︎ 写真:山岳フォトグラファー加戸昭太郎|Shotaro KATO
( 取材日:2011年10月4日~10日)

▽シリーズ《1週間テント泊ソロ縦走》
前編:小学生のころ見上げた、北アルプス夢の天空路へ。
中編:この神々の聖域を、一生忘れないだろう。
後編:空と大地の間に生かされ、歩を前へ。

〈DAY5〉
2日分の水を背負い、ルート最難関エリアへ

寒さで目が覚め、温度計を確認するとテント内温度は2℃。
同時間の初日の「ババ平」と、2日目の「双六岳テント場」では7〜8℃、前夜は5℃だったので、気温はさらに急速に下降しているのがわかる。

秋を通り越し、冬の到来を肌で感じる。
一部のナナカマドが紅葉せずに枯れ始めていた。急に寒くなると起きる現象だ。

野生の植物たちも驚いているわけだから、街で飼い慣らされた〝か弱い生きモノ〟である人間のぼくにとっては、より厳しいはずだ。

テント内で、横になりながらいつも以上に入念なヨガを行なうが体温が上昇しない。

まだ真っ暗闇の外に出て頭上を見るとすごい星雲だ。
深呼吸すると肺の奥まで冷気が刺さり込んできて、体の芯が震える。

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夜露に濡れてビッショリのテントだけを残し、他のモノすべてのパッキングを済ませる。いつもの出発前の、立ちスタイルでのヨガストレッチを終えた後、軽い朝食を胃に入れる。

少しでも軽くしたかったため、ギリギリまで乾かすべく風と朝陽に当てていたテントの水分を拭い取りしまい、大量の水を汲んで水筒をバックパックの上部に積み込む。

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さあこれから、今回の旅でもっとも緊張感のある48時間が始まる。

今夜の野営地「スゴ乗越キャンプ場」は営業期間が終了している。

隣接の小屋はもちろん、水場も閉じられている。その上、明後日のテント場・五色ヶ原までエスケープルートがまったく無いのだ。2日分の水6Lを背負って直登を開始。山に入って5日目のぼくの肉体には正直、少しキツい。

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森林限界を越えると、雪が散らばっていた。風が冷たい。ひたすら上を目指し、一歩一歩、下を向かず上を向いて歩き続ける。

出発した時は、遙か遠く上空にあると感じていたが、歩けばあっという間だった。これまで、あらゆる山から見てきて憧れていた、貫禄の存在感を放つこの薬師岳の最高地点に到着。

 

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前から登頂したかったこの山頂には小さな神社が置かれていて、そこから遙か遠くには槍ヶ岳が、眼下には雲ノ平がはっきりと見える。

まさに絶景。

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ここからいよいよ最終ゴール地点の立山へは、一本道。

そしてこの先は、見渡す限り雪のトレイルが続く。一昨日に降った雪が残っているのだ。ゆっくりと慎重に、そして確実に下降を続ける。

岩稜の在り方や山の雰囲気がこれまで歩いてきたエリアと少し違う。すでに自分が、これまでと違う山域にいることを自覚する。

遠くまで歩いてきたものだ。

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道を見失わないよう濃い霧に注意しながら、荒涼とした雪の稜線を進む。
雪はそんなに深くないし、アイスバーン化もしていない。今日もアイゼンの必要はなさそうだ。

北薬師岳と間山を越えて、再び森林限界に戻ると、遂に「スゴ乗越小屋」がその姿を現した。

 

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いつも以上に時間をかけて丁寧にヨガストレッチを施して、手足の最末端と肉体の細部まで毛細血管を拡張させて、新鮮な血液を送り込む。その血流が、体の細部に留まろうとする疲労物質を取り除いてくれるのだ。

今日背負っていたいつもの3倍の水の量は、両肩にわずかな〝しこり〟を残したものの、肉体のバランスはいい均衡を保ってくれている。体力も、まだまだ大丈夫だ。

テントを張って寝袋とマットレスを敷き、夕食を済ませる。
明日の準備を終えてテントから出ると、外には大宇宙を感じさせるような神々しい夕焼けが展開していた。

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〈DAY6〉
圧倒的な絶景パノラマが続く 奇跡のような稜線歩き

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この区間は、いざという時にすぐ下山できるような逃げ道がないことと、「百名山がない」という理由から、ほかの人気ルートに比べると登山者は少ない。

さらにこの時期、一部で小屋閉めが始まっていることもあり、薬師岳を越えてからすれ違ったのは1組だけ。

なるべく静かな山の時間を過ごしたかった。
これが、不便もリスクも高まる10月という時期を選んだ、理由のひとつだった。

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あとは、台風や雷のリスクが少ないこと、長期縦走ということもあり、発汗量が少ない季節に歩きたかったという狙いもあった。
夜の冷えが厳しくなること、日没が早いというデメリットはあるが、総合的に正解だったと確信。

旅も6日目となり、この山歩き生活は、ぼくにとっては「日常」となってきた。

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2日目、3日目とラフな天候に苦戦したが、昨日から今日にかけての好天で、テントは完全に乾き、食糧もかなり減っていて、荷は軽くなっている。
そして引き続き、体の節々は「好調」を告げている。

「パリパリッ」と、白く輝く霜を踏みしめながら、足取り軽く、越中沢岳へ向かう。

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今日の天候は圧巻で、雲ひとつ無く、遙か彼方まで見通せる。

背後には槍・穂高連峰、右手には裏銀座の稜線、そして前方の奥には、いよいよ剱岳がその姿を現した。

「ありがとう」と、ひとり天に感謝した。

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素晴らしい稜線歩きが続き、今日最後のピーク、鳶山頂上に立つと、眼前にもの凄いパノラマが広がった。

神様がアルプスに設置した巨大ステージのような五色ヶ原と、そのすぐ脇にそびえる荒涼とした立山三山。

この神の峰々に囲まれた、この巨大ステージがぼくの、最後の寝床となる。

最終日だという「五色ヶ原小屋」で受け付けを済ませ、テントを張り午後の時間をノンビリと過ごす。

わずか3日前の、雪が覆い尽くした雲ノ平での時間が、はるか昔の出来事のように感じる。そして、今日ここまで事故もケガもなく来れたことに対して、大地へ感謝の意を表したくなり、片膝をついて思わず手のひらを地面につけた。

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〈DAY7〉
一生忘れられない 7日間の山旅ドラマ完結

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朝テントを畳みながら、ここまでの1週間を振り返っていた。

有名無名関係なく、どの山も、どのトレイルも、優劣つけるのは不可能で、すべての一歩一歩が宝物であり、忘れがたい思い出となっている。

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1週間、山の中を歩いていると、自分が空と大地の間に存在していることを実感する。
山間のテント場で夜空を眺めていると、自分が宇宙と地球の間に生かされている感覚になれる。

今回はそんな「起源感」を再認識できた旅だった。

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龍王岳の山頂から、重なる稜線の遠くに槍ヶ岳を確認。

槍ヶ岳とは、いよいよここでお別れだ。
ここまで何度、あの鋭鋒を振り返り、自分が歩いた距離を確認したことか。2日目に登頂して以降ずっと、ぼくの前進を背中から押し続けてくれた守り神のような存在だった。

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7日間ずっとぼくを見守ってくれた守護神・槍ヶ岳に「ありがとう」とつぶやく。
もし、山の神がいるのならば、きっと聞き取ってくれたはずだ。

こういった長期縦走では、体力や道具も大事だが、メンタル面が最重要だ。

わざわざ最初に槍ヶ岳を越えるルートを選んだ理由、テーマ②「槍ヶ岳は登頂したい」の解はここにあったのである。

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テーマ①「山頂にはこだわらない」に関して。
この旅において、山頂はあくまで「寄り道」だったが結局、全ての山頂に立った。時間的にも体力的にも余裕があったのも事実だが、いつもなにかに突き動かされ、導かれるように山頂に向かっていた。

澄み渡るような大空のもと、最後の下りに入ろうと目を下に向けると、足下に小さな集落が見えた。立山・室堂だ。

丁寧に、丁寧に最後のトレイルを下る。
あれほど恋い焦がれた目的地を目の前にして、「ああ、終わってしまう」と、この旅を終えたくないという気持ちに襲われる。

達成感の前に、なぜか寂しさという感情がぼくの体の中に充満する。

夢にまで見た天空路は終わり、自分の身が下界に近づいていることを実感したころ、遂にゴール。

スニーカーを履いた観光客が歩く中、強い孤独感を感じながら、トボトボと歩く。

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室堂駅からケーブルカーを乗り継ぎ、黒部湖のダムサイトまで下降。
そこから見えるはずもない、ぼくが歩いたルートをじっと凝視して、自分がまだそこにいると妄想してみる。

ほんの数日前には、あの先の山道を歩いていたのに。今日ほんの数時間前は、ぼくの背後にある山の上からこの湖面を見下ろしていたのに。

旅は終わった。

やっとここで、ぼくは旅の終焉を自覚することができた。

このあと街に戻ったぼくは、しばらくの間、魂が抜けたような日々を過ごしたことは言うまでもない。

次はもっともっと長く、この山域を、天空路を歩いてみたいと思う。

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▽シリーズ《1週間テント泊ソロ縦走》
前編:小学生のころ見上げた、北アルプス夢の天空路へ。
中編:この神々の聖域を、一生忘れないだろう。
後編:空と大地の間に生かされ、歩を前へ。

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