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ついに全貌公開。「NZ移住物語01|理想郷を探す旅」【誕生〜大学生編】

Words by Daisuke YOSUMI
Reading Time:10m44s
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ぼくはいま、ニュージーランドの、湖畔の森の自宅庭の桟橋の上にいる。

澄んだ湖と空、そして餌を求めて浅瀬をクルージングしているニジマスを眺めながら、30年以上続けてきた旅を振り返っている。

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ぼくが生まれたのは、京都と奈良との県境に近い大阪府下の自然豊かな田園エリア。

小学校低学年までは、アレルギー持ちで身体が弱かったにもかかわらず、雑木林や田畑に囲まれた日本的な里山環境のおかげで、いつも外で遊んでいたのを憶えている。

小学校2年生から水泳を、3年生から野球をはじめたおかげで、高学年になったころから病弱体質も改善し、野生児のような幼年期を過ごすように。とくに小川や池などの水辺で遊ぶのがなによりも好きだった。

釣りは、幼稚園に入る頃に父親に連れられて、祖母の家の近くの淀川でフナ釣りをしたのが最初。

当時のぼくにとって、水中は完全なる未知の世界だった。そのとき魚が釣れたかどうかの記憶はないが、釣り糸を通して水の中とつながるゾクゾクする感覚を知った。

そのあと小学校に入ってから、友人と一緒に家の近くの小さな川ため池に釣りに行ったとき、ぼくの竿に小さなフナがかかった。
細い糸をたどって水の中から伝わってくる、小さいけれどたしかな命の振動を右手に感じて、心臓が脈打ち、足がガクガクと震えて言うことをきかなくなった。

小学生の手のひらに乗るフナである。そんな小さな水の中の生き物が、その何百倍も大きな陸上の生き物であるぼくを狂わせた。

「これはなんなんだ!?」
思わず、ぼくはフナをわしづかみにしていた。

そして、小さな命から伝わってくるもの凄いエネルギーの仕組みを解き明かそうといじくり回していたら、フナはあっけなく息絶えてしまった。

「生き返れ!」心の中でそう叫びながら指先でピン!と何度もつついてみるがまったく反応はない。全身から放たれていた強い生命感と、眼の中のキラキラとした輝きは消失していた。フナは単なる物体に成り代わっていたのだ。

高揚感と無力感、畏怖感とせつなさがいりまじったような、初めて味わう気持ちだった。そのときの、つきあげてくる説明不能な衝動は、いまも覚えている。

そして、このときの衝動につき動かされて、ぼくはその後の人生をデザインしてきた。

旅が始まっていたのだ。

〈世界中のフライフィッシャーの憧れ、ニュージーランドのブラウントラウト〉

〈自転車で通ったため池の思い出が、やがで赤道を挟んだ遠い湖へ自分を向かわせた〉

小学校から中学校にかけては、近所の野池や川での釣り、父親の実家近くの海の防波堤や砂浜での投げ釣り。
夏休み恒例の川原キャンプでの、鮎の友釣りやオイカワ(ハヤ)のオランダ式毛針釣り。
そして、母方のルーツである信州長野で渓流釣りなどをした。

中学から高校にかけては、ツーリング自転車や、オフロードバイクで遠出して、鯉の吸い込み釣りやブラックバスのルアー釣りに夢中になった。

エサ釣り、サビキ釣り、毛針釣り、ルアーフィッシングなどを経験していくうちに、「フライフィッシングという究極の釣りがある」と知ることに。さらに当時、大好きだったマンガ『釣りキチ三平』で、主人公がその釣りの虜になる姿を見て、「いずれはフライフィッシングを極めるんだ」という夢が宿るようになる。

そうしていろいろな釣りをやり、さまざまな水辺に立っているうちに、ぼくは〝理想郷〟を夢想するようになっていた。

小学生の頃、テストの答案用紙の裏に、川沿いに家を建てて、川から庭に水を引き、自分専用の小川をつくるという妄想を表した絵を描いた。車や電車で旅をするときは、ガラス窓に顔を押しつけるようにして、脇見も振らず、車窓から見える景色のなかに川や池や湖を探した。

田舎へ行けば行くほど、透明な水辺が次々と目に飛び込んできて、車窓の映像を食い入るように何時間も眺めていた。水が張られた田んぼや、大きな水たまりでさえも、興奮するような少年だった。

高校生の頃には〝理想郷〟の具体的なイメージがつくられていた。

それは、自宅の近くの林にポツリとあった湧き水の池。
自転車で2時間近くかけて通い詰めた小さな山上湖。
家族で行ったカルフォルニアの、小さな湖の桟橋で釣りをする親子の姿。
留学した米国シカゴ市に隣接する、ミシガン湖の雄大な眺め。
北海道旅行のときに知り、日本一好きな湖となった阿寒湖。

さらに、テレビや写真で見た知らない国の美しい水辺の風景など、リアルとバーチャル関係なく、それまで見てきた多くの景色の集合体だった。

そして、いつかそんな理想郷で暮らしたいという夢を抱くようになっていた。

〈世界中のフライフィッシャーの憧れ、ニュージーランドのブラウントラウト〉

〈世界中のフライフィッシャーの憧れ、ニュージーランドのブラウントラウト〉

高校時代のいちばんの親友で釣り仲間のトシゾウという男が、大学に入ってしばらくして、ニュージーランドに留学すると言い出した。

理由は「世界最高の釣りがしたいから」。

ニュージーランドってどこだ?
当時のぼくはニュージーランドのことをなにも知らなかった。

トシゾウはニュージーランドに着くなりフライフィッシングを開始。そして、トシゾウから頻繁にくる手紙で解説されているフライフィッシングのハウツーを読みながら、ついにぼくもフライフィッシングをはじめることに。ニュージーランドからの通信レッスンだ。

 

「ダイスケ~! 猛ダッシュしていちばん近くの公衆電話からかけてる! ついにやったで! たったいま釣れた!」

トシゾウが旅立って半年近くたったある日、大学からアパートに帰ると、留守番電話にトシゾウからの叫び声が入っていた。当時、ネットはもちろんなく、FAXは普及したばかり、国際電話はとても高価だったということもあり、ニュージーランドからのトシゾウの電話はそれが初めてだった。

前回の手紙には、「ホームステイ先の近くの湖で、夕方、必ず姿を見せる巨大なブラウントラウト(マス)を相手に、悪戦苦闘を繰り返している」という苦悶の言葉が綴られていた。

そして、そのあとに届いた手紙には、泣いているのか笑っているのかわからない表情をしたトシゾウが、砲弾のようなブラウントラウトを、両腕で必死に抱いている写真が同封されていた。あわててセルフタイマーで撮ったのだろう、フレーミングがずれてトシゾウは端っこのほうにいる。

カメラが得意なトシゾウの写真には、いつも背景にニュージーランドの鮮烈な景色と青く透明な水辺が写っているのだが、この大物とファイトを繰り返している間に陽が落ちてしまったのだろう、この写真のバックは真っ暗でなにも見えない。

彼の写真にしてはイマイチなデキではあったが、ニュージーランドのフライフィッシングの生々しい迫力が伝わってくる一枚だった。心がブルブルと震えた。

これが、ぼくの頭のなかが、フライフィッシングとニュージーランドでいっぱいになった瞬間だった。

〈大学生時代の旅の相棒、改造デリカ。社会人になっても乗り続けた〉

〈大学生時代の旅の相棒、改造デリカ。社会人になっても乗り続けた〉

その頃、肉体的にも精神的にもかなり苦しいが時給は高い、東京浅草にあるホテルの配膳のバイトをやって、なんとか30万円を貯め、ボロボロの『三菱デリカ』という四輪駆動のワンボックスカーを購入。

ベッド、キッチン、収納を自分で作って組み込み、フロントには山道で立ち往生したときのための大きなショベルをくくりつけ、ワイルドなキャンピングカー仕様に改造した。

寝袋・自炊セット・食料・水などの生活に必要なもの、マウンテンバイク・一人用ゴムボート・登山ウェア・フライフィッシング道具などのアウトドアギアはすべて積みっぱなし。思い立ったらアパートを飛び出して、水辺を目指した。

お金がかかる高速道路は使わず、一般道を行けるところまで行って、眠くなったらコンビニの駐車場に滑り込み、そのまま車中泊。次の朝、なに食わぬ顔をしてコンビニの洗面所とトイレを拝借して準備を済ませ出発して、さらに車を走らせる。

夜までに釣り場の目の前まで行って、水辺に車を停めて眠ることができれば、贅沢なウォーターフロント泊となった。そしてそこが気に入ったら何日も車中泊を続ける。

そんなふうにして、マス族が生息する関西エリアの山間部から、関東甲信越全域の水辺を旅した。

夏休みには、自作キャンピングカーをフェリーに載せて日本海を北上し、小樽で北海道に上陸。そのまま東へ向かい、大雪山のトムラウシのキャンプ場で1泊。そのあと、屈斜路湖畔にしばらく滞在して、知床半島の羅臼キャンプ場にたどり着いた。

それから、網走、北見、稚内と北上し、最後は海岸線沿いを南下して小樽に戻るコースで道南以北の北海道を一周するつもりだったが、素晴らしいもの知床の大自然に惚れ込んてしまっため、結局そのまま10日間ほど知床の羅臼に居着いてしまった(その後、何度も訪れることになる)。

羅臼キャンプ場からは太平洋と国後島が一望でき、明け方にテントのジッパーを開けると、目の前をゆく鹿の小さな群れと目が合うこともしばしば。

すぐ近くの河口には、産卵のために故郷の川を遡上しようとピンクサーモン(カラフトマス)の大群が押し寄せている。川を30分ほど上流に行くとエゾイワナ(オショロコマ)が何十匹と釣れる。

心と身体が沸騰しているのがわかった。目で見るというより身体で感じる圧倒的な景色。大地から突き上げてくるエネルギー、透明な水、そして生命力あふれる野生魚たちが、ぼくのなかに眠る野生動物としての本能を沸き立たせているのだ。

こうしてぼくは北海道の自然の虜になった。

ニュージーランドと北海道。

ぼくはこのふたつの土地に〝我が理想郷〟を見るようになっていた。

本記事は、2009年発売の書籍『FLY FISHING TRIP』掲載のエッセイ「理想郷を探す旅」全文の完全版です。(当サイト解禁|2016.1.9)

「NZ移住物語|理想郷を探す旅」連載全4回

第2章:心が壊れたプロデューサー時代。「NZ移住物語02|理想郷を探す旅」【就活〜社会人編】

第3章:失った自分を取り戻す。「NZ移住物語03|理想郷を探す旅」【憧れ編】

第4章:そして最終章。「NZ移住物語04|理想郷を探す旅」【移住決意編】

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